ようやく秋らしいさわやか風が吹いてくるようになった。朝晩は冷え込むが、日中の心地よさはあの夏の過酷な日中と比べものにならない。やっと「ひとときの幸せ」を味わえる季節になった。
川崎市ではクロアチア共和国リエカ市と姉妹都市を1977年に結び今年で30周年。その30周年を記念して、音楽交流祭と題し3カ所で交流コンサートが行われることになった。
「あさおランチタイム実行委員会」から実行委員を推挙してくださいということでこの私が出席することになった。川崎に居住して24年。知識不足でリエカ市が姉妹都市などとは実行委員になるまで知らなかった。おおー。大変恥ずかしい。
でもよく考えてみると知らなくて当たり前であった。市や県や国が、姉妹都市だの友好都市だのと提携している諸外国の都市や国の情報を一般市民に浸透させているものではない。市民や国民の日常生活にそのような情報は届いていないのが現実。よほどの関心を持っているならともかく、またその筋の研究者ならいざしらず、「知らなくて当たり前よ」となぐさめてくれた委員がいたおかげで気が楽になった。
この記念コンサートのコンセプトは「市民とともに楽しめる音楽文化交流」である。3カ所の会場は、国際交流センター、ミューザ川崎シンフォニーホール、昭和音楽大学ユリホールと川崎を縦断した会場で開催されることになった。
コンサートもそれぞれの会場の雰囲気に合う内容に企画し、特色を出そうということになった。 市民交流がメインの国際交流センター、クロアチアと川崎の音楽交換をメインにしたミューザ川崎シンフォニーホール、クラッシクの醍醐味と真髄を味わってもらうための音楽提供がメインの昭和音楽大学ユリホール。それぞれのコンサートのメインテーマが決まり、市民が楽しみながら温かい交流の雰囲気が漂う企画になった。
初日の交流センターでのエピソード。
リエカ市五重奏団の演奏は素晴らしかった。
演奏者のファッションが印象的だった。きらびやかなドレスではなく、普段着のファッション。視覚的にも日常の風景が目の前に映っていて聴衆が構えて聴かなくても良い雰囲気を作ってくれた。
肩の凝らない自然体の演奏は、「一緒に響きを楽しみましょう!」と声をかけてくれるような演奏だった。「いつものように・音楽を。さあ!楽しんでね!」という気持ちが伝わってきた。
第1ヴァイオリンのコンサートマスターはヴァイオリンの音色と音楽を感じる息使いと弦楽合奏の音をそろえるためのリアクションが非常に大きく、最初はびっくりした。 しかし、聴いている間にその演奏スタイルが音楽に溶け込んでいることに気がついた。その場にいた聴衆も同じだった思うが、私は妙に惹きつけられ、陶酔してしまった。
弦楽の音色は明るい透明感のある音色で音楽が「言葉」となり聴衆に語りかけていた。
すっかり満足した私。
ついつい調子にのって演奏が終わった後の交流会で演奏者に話しかけてみた。クロアチア語なんて全く分からないから少し単語が分かる英語で話してみようと思い勇気を出した。
たどたどしい英語でおそるおそる話しかけてみた。
奇跡は起きた。なんと通じたのだ。人間の勢いってすごいと思った。その場の雰囲気、その場の盛り上がりで人格が変わってしまった私は、手振りと満開の笑顔でおしゃべりをした。 音楽の話。家族の話。まちの話。そのひとときは、大げさじゃなくて心から「生きてて良かった」と思った。
余談だが交流会の司会者は小澤幹生氏。小澤征爾氏の弟さん。その幹生氏の話によるとシャープペンやネクタイもクロアチアが発祥の地なんだそうだ。デイズニー映画でおなじみの「百一匹ワンちゃん」の主人公犬、ダルメシアンの原産国でもあると聞いて、犬好きの私はクロアチアがものすごく身近に感じた。
アドリア海の港湾都市リエカ市。おおらかな温かい人柄の演奏家に出会い、そのうち、リエカ市に行ってみたいと思った。
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