12月1日に新百合ヶ丘駅近くの昭和音楽大学「テアトルジーリオ ホール」で、アイルランド王立音楽院チェンバーオーケストラの演奏を聴いた。
アイルランドの音楽と言うことでぜひ聴いてみたかった。
その数日前、11月22日に麻生区の区役所ロビーでランチタイムコンサートがあり、そこでもアイリッシュハープとピアノとフィドル(アイルランド特有の奏法で演奏するヴァイオリンのこと)の演奏を聴いた。フィドルという名称の楽器があるのかと思いきやただの普通のヴァイオリン。そのヴァイオリンをアイルランド民謡、民族音楽を演奏するときは、特別な弓の使い方や音楽表現を使って演奏するのでそのときは、普通のヴァイオリンがフィドルという名称にかわるのだと言う。
また一つ勉強した。
12月1日のプログラムの中に、ウィーラン作曲「イニシュラッケン」というのがあった。1990年代から欧米で熱狂的ファンを生み、リバーダンス旋風が巻き起こったが、そのリバーダンスの作曲を多く手がけた作曲家がこのウィーラン。
魅力的な音楽だ。旋律は情景がふわーと思い浮かんでくる甘美な旋律で、音の一つ一つに情熱と愛が感じられる。まるで恋人同士の語らいがつづれているような……小説を読んでいるような……そんな音楽を創る人である。「イニシュラッケン」というのはアイルランドに海岸のゴールウエイ沖に浮かぶ島の名前だそうだ。
この曲は2人のヴァイオリニストとオーケストラの協奏曲。 そのソロヴァイオリンが2人ってこと。そのうち一つがソロフィドルとプログラムに記されていた。
ソロフィドルと、ソロバイオリンの旋律が響き始める。愛の語り合いが始まった。笑ったり、ほほえんだり、他愛もない日常の動作や、今日起きた出来事の一こまを2人の奏者が語り合っている。まるで2人の間にテーブルがあって、ワイングラスやビールやソーセージもあり、食事をしながらおしゃべるする楽しいそうな雰囲気があった。
ふと気づくと私の妄想の世界が始まっていた。
2人の物語が展開し、周りのオーケストラは友達であったり、家族であったり。 それぞれの楽器の音色がおもしろいように物語を進めていく。真実の愛、固く結ばれた愛。2人はやがて2人で新しい未来へと羽ばたいていく。永遠の愛を誓いながら……。
ホールの外に出た。小雨が降って落ち葉が風と一緒にダンス。
駅周辺のイルミネーションがアイルランドの西海岸に見えた。海の波の輝きはイルミネーションの輝きに似ていないけれど、その時は似ているように錯覚した。なにせ妄想の世界のままだったから。
タクシー乗り場までがアイルランドに思えた。
待っている人全員がアイルランドの紳士と淑女に見えた。「タクシーが来たぞ」低く響く魅惑的な声がする。ちょっと甘えた声で「あっ。本当」精一杯アイルランド人の恋人になりきる私。
「早く、早く、乗って。」せかされてばたばたと足音を立てる私。「ふー。乗れたわね」隣の男性に声をかけると返事が返ってきた。
「今日は寒いよなー」顔は主人だった。アイルランドではなく、紛れもない日本だった。現実の世界だ。帰ったらご飯の支度しなくっちゃね。そう私は「主婦」。イルミネーションの魔法も、落ち葉のダンスも今宵限り。